1 いちばん乗り

 天気=花ぐもり。
 風=ときどきつむじ風。桜ふぶき。
 温度=ぽかぽか。
 気分=サイコー!
 わたし=尾関ひかる。本日、四月十日、四年生になります!
 一分でもはやく四年生になりたくて、わたしは七時二十分に家をとびだした。
「お姉ちゃん、待ってよ。チョーはやすぎるじゃん。ぼく、まだ、トイレ行ってないんだよー。」
 弟の周平がパンツを下げながら半ベソかいてたけど、しーらないっと。
 団地の五階からダダダーッといっきにかけおりた。
「しずかにせいっ。」
 三階のヤマンバにまたどなられたけど、しーらないっと。
 マンモス団地のまんなかにある学校だから、のろのろ歩いても十分もかからない。開門は七時半。あんまりはやくついて門の前で待ってるのもカッコわるい。ぴったりについて、オッハーとさりげなくいちばん乗り、と思いながらてれてれ歩いた。
 タコ公園わきの山吹がおいしげっているあたりで、今朝もチコ(小泉千絵子)が待っていてくれた。はやすぎても、おくれそうになっても、かならず待っていてくれる。
「オス。」
 わたしは敬礼みたいにピッと片手をあげていつものあいさつ。チコはにこっとするだけ。にこっとするだけに一年かかった。――まだ、声は出ない。
「いい先生になるといいね。」
 話すのはわたしだけ。どんな先生になるのか、不安でたまらないから、ひっきりなしに先生たちの悪口やうわさをしゃべっていたら、ジーンズに紺のジャケット、白シャツの若い女の人に、すいっと追いぬかれてしまった。ふわっとかすかにいいにおいがして、女の人はちらっとわたしを見てわらったようだった。
(ム・・・。)
 わたしは、追いぬかれると、すぐムキになる。チコといっしょのこと、わすれた。
(続)