1 くもる

 わたし=尾関ひかる。またの名は〈プール荒らしのひかる〉。
 夏やすみ中、一日もやすまずにプールに通いつづけたよい子。学校のプールがやすみの日は、市営プールに通った。
「とつぜん、どうしたの?」
 マーちゃん(母)はびっくりしていた。自分でもびっくりだ。わたしは、ついこの間までカナヅチだった。プールのある日は、熱が出た。プールでおぼれることはあっても、水泳にハマるなんて、夢にも思っていなかった。
(奇跡!)
 マジ、ふしぎ。
(わたしが、泳いでる!)
 うれしくてたまらない。毎日毎日、走ってプールに通った。
 西島美冴はオーストリアかどこかに音楽の旅だし、風間純は長野県の山の中でサッカークラブの合宿だし、うるさい弟は「わんぱくキャンプ」だし、四年一組のほとんどの子たちが朝から晩まで塾で勉強だし、ヒマ人のわたしも負けてはいられない。
「ま、健康第一で結構ですけどね。宿題くらいはやってよね。」
 さすがのマーちゃんもあきれていた。
 宿題は半分くらいしかやってないけど、ドンマイ!
(夏は短い! 宿題は長い!)
 チョー混雑のプールの中をイルカになったつもりで泳ぎまわるのは、楽しかった。もぐり専門。当番の先生や監視員さんたちには「もぐるなっ!」って、しょっちゅうハンドマイクでどなられていた。だけど、ごったがえしのプールでは、手足をのばして自由に泳ぐなんて夢の夢。力いっぱいクロールなんかやったら、だれかをなぐってしまってけんかになる。けんかにならないもぐりはサイコー!
(続)