I 見知らぬ子

 哲平が、その男の子に気づいたのは、二学期がはじまったばかりの算数の時間だった。
 磐座哲平は、私立神明学園小学校の五年生だ。
 正直いって哲平は算数があまり得意ではない。
 一組担任の長嶋先生というのが、象さんのように大きくふとっちょで、話しぶりもすごくゆっくりしていた。
「さあ、これから黒板にいくつか分数の問題を出すから、みんなノートにうつして、計算して答えを出してごらん。」
 長島先生はみんなに背を向け、黒板に問題を書きはじめた。
 黒板に書くときも、長島先生はしっかりと大きな字を書くので見やすくていいのだが、そのしぐさがあまりにもスローテンポなので、せっかちな哲平にはじれったくてしかたがなかった。あまりゆっくりしているので、哲平はついつい眠気におそわれるのだ。
「分数の足し算と引き算は・・・まず分母を同じにしようね。」
 眠い。まぶたが重くなってくる。
 長島先生の声がだんだん遠くになり、まるで子守歌のように聞こえる。
 そうでなくても哲平の席は窓ぎわで外から熱い陽射しがさしこんできて、ぽかぽかとからだがあたたかくなって眠気をさそわれていた。
 哲平があくびをかみころしながら、何気なく顔を横に向けたときのことだ。
 いつも空席であるとなりの机に、いつのまにか、色の黒い小さな男の子がちょこんと椅子にすわり、哲平に向かって、にっこりとわらったではないか。
 あれ? 誰だ? こいつ。
 哲平は眠い目を手でこすった。
(続)