1 ウチはビンボー

「ももこちゃんって、どうして、塾にも行ってないのに、勉強ができるの?」
「そうだよ、いっつも百点だし。」
「塾でいちばんだとかって、いばってる翔太くんなんかより、頭いいしね。」
 頭いい、なんて決めつけられるのは、にがてだ。あたしはあわてて頭を、ぶんぶんよこにふった。うしろでひとつに結わえている長い髪の毛が、左右にゆれた。
「それなのに、いばらないし、ももこちゃんってすごく学級員っぽいって思わない?」
 あたしはさっきよりもっともっと、馬のしっぽみたいな髪の毛を、ぶんぶんふりながら、ずりおちそうになったメガネを、指で上へおしあげた。
「ひまなだけだよ。」
「ひま?」
「うん、あたし、みんなより、すごくひまだから。」
 一時間めの学級会で、あたしは学級委員にえらばれた。
 それも、つくえの下に『怪盗ルパン』をかくして読んでいるあいだに、みんなに決められてしまって。
 ちょうど、ルパンが、げんこつのグーくらいもありそうな、すごくきれいな赤い石、ルビーを盗みだすしゅんかんだったのだ。だから、目がはなせないでいたら、いつのまにか、学級委員にされていた。
 男子の学級委員は、その、いつも、いばってる翔太くん。
 翔太くんは、あたしとクラスでいちばんなかよしの、さおりちゃんの幼なじみだ。幼稚園のときからずっと、ラブラブってうわさがあるくらいなかよしだ。
「ももこちゃんが、もし辞退してくれたら、あたしが学級委員やってもよかったのに。」
 帰り道、とつぜん、さおりちゃんにいわれた。
(続)