1 プリンバトル
窓からさしこむ、初夏の日ざしがまぶしかった。
ゆるやかな風が、カーテンをワンピースのすそのように舞いあげる。教室では、みんなが楽しそうに給食を食べながら、わいわいとおしゃべりをしていた。
平和な光景・・・のはずだけど。
「正々堂々と、勝負してよね!」
「のぞむところよ!」
おだやかな空気を吹きとばすように、あたしとサヨリは立ち上がった。
ぎゅっとにぎったてのひらに、じわっと汗がにじむ。
本気の、真剣勝負!
「ジャーンケーン・・・。」
ポンッ!
あたしがグーで、サヨリが・・・パー。
「ヤッホー! プリンはわたしのものよ!」
サヨリが、ガッツポーズをする。ちぇ。体から、ふにゃっと力がぬけた。
「おい、泣くことないだろ。みっともない。」
春名結城が、あきれていった。ちょっとかっこいいからって、ちょっと有名な料亭の息子だからって、ムカツク!
「泣いてないよ!」
ううん、ほんとうは、ちょっとだけ涙がにじんでた。給食で残ったプリン。最後のひとつだったのに。
「大体オマエら、女のくせにくいいじはりすぎ。そんなんだと、嫁のもらい手ないぞ。」
「あんたこそ、そのセクハラ発言、なんとかなんないの!? そんな、昭和初期みたいなこといってると、婿のもらい手ないからね!」
あたしは、負けずにいいかえした。
春名は、生きた化石みたいな人間だ。今でも、おしとやかで美しい大和なでしこがいると信じてて、亭主関白をめざしている。
「ふん、料理もできないくせに。自分の心配したほうがいいぞ。」
春名は、勝ちほこったようにいった。料亭の息子だけあって、料理は得意だ。あたしは、ぐっとことばにつまった。
(続)