1 出会い

 八月一日の学校。
 空は青くすみわたっていた。
 わたしはひとり、武道場からたらいを持って、体育館のわたりろうかの水道場に、やってきた。
 水道のコックを思い切りまわして、たらいにいきおいよく水を入れていく。
「それ、シュート」
 目の前の体育館からは、ミニバスケ部のかけ声がさわがしく聞こえてくる。
 キンッ!
 金属バットの音に後ろを振り返ると、まぶしい光の中、野球部が練習試合をしている。
 校舎の中からは、吹奏楽部の演奏の音がひびいてくる。
 夏休みだというのに、学校はいろんな音にみちている。
『でも・・・』
 私は、自分が出てきた武道場に目をむけた。
 シンッと静まりかえって、人の気配すらない。
「水がもったいないよ」
 聞こえてきたその声に、ハッとわれにかえった。
 たらいにはすでに水がみち、音を立ててふちからあふれ出していた。
 わたしは、あわてて水道のコックをもどして水をとめた。
「フーッ」
 ひといきついて、首をまわし、声の主をさがしてみると、Tシャツ、短パン姿の少年が、わたりろうかのさくに背をもたれ、校庭の野球部に視線をむけて、立っていた。
 夏瀬ケンヤ。わたしより一学年下の五年生。
 なぜ学年がちがう男子のことを知っているかというと、コイツが五年生ながらサッカー部のエースでスポーツ万能、学年をこえた有名人だからだ。
 ととのった顔立ちだが、瞳は野性的だ。
 ファッションセンスもバツグン。
 適度に長い髪は、カッコよくカットされている。
――美容室でカットしているな。自分のルックスがいいことを当然だと思っているヤツ・・・。
 うちのクラスの女子にも、コイツのファンは多い。
 そいつらはサルみたいに、きょう声を上げながら、サッカー部のコイツの練習風景を見物している。
 わたしは、男子のように短くかり上げた、床屋仕様の自分の頭を、無意識にかいていた。
「夏瀬ケンヤ。サッカー部のキミが、なんでここにいる。夏休み中のサッカー部の練習は、運動公園のはずでしょう」
 わたしは、ケンヤにそう聞いた。
「暑いから、たらいの水が気持ちよさそうですね。久世ミクさん」
 ケンヤはほほえみをうかべながら、わたしの質問には答えずに、そんな言葉をかえしてきた。
(続)