1 再会
八月七日。午前十時。
青空の下、学校をかこむ木々からわきあがるセミの声がさわがしい。
まぶしい日ざしに焼かれた校庭の砂から、熱気が立ちのぼる。
わたしは、額の汗を腕でぬぐいながら、砂をけって、武道場に走っていた。
つい数分前までは、冷房のきいた市の生涯学習センターにいた。
スポーツ少年団剣道大会のもうしこみに、行っていたのだ。
それが今、あせって走っている。
むかっている先は、ケンヤ、ヨウジ、ハル、ヒロの四人の剣道部員が待つ学校の武道場だ。
――このままじゃ、一回戦突破どころか大会参加さえできない!
おととい、わたしは、剣道部指導者であった父と、約束をした。
八月二十八日に開催されるスポーツ少年団剣道大会で一回戦突破ができなければ、剣道部を廃部すると。
――まさか・・・、こんなことになるなんて!
武道場の前の、五段の石の階段を、段飛ばしで二歩でかけあがり、わたしは武道場に、飛びこんだ。
汗にまみれて、息を切らしているわたしに、輪になってすわっていた四人の視線がむいた。
「どうしたの! もうしこみで、何かあったの」
わたしのようすに、ヒロが心配そうに聞いてきた。
わたしは息を整えて、リュックから開催要項ともうしこみ書をとりだし、みんなの前にひろげた。
「見て! このもうしこみ書。指導者欄の記入が必須とあるでしょう。わたしたちには、今、指導者はいない」
ヨウジが、聞いてきた。
「指導者は“なし”って書くわけには、いかないの?」
「うん。わたしも、それを受けつけで聞いたんだよ。そうしたら、指導と安全に責任を持てる指導者がいないなら、もうしこみは受けつけられないっていわれちゃったんだ!」
「指導者だって? むりだよ。あしたの午後五時しめきりじゃ、さがせないよ」
ハルが大声でさけんだ。
「もし、大人で誰でもいいなら、お父さんにたのんでみてもいいけれど・・・」
ヒロが提案したが、わたしはしずかに答えた。
「だめよ。見て、開催要項の指導資格。今年度スポーツ少年団公認指導員の資格を有し、剣道三段以上、または剣道社会体育指導員の資格を有し、剣道三段以上の者と、書いてあるわ。ヒロのお父さんは、剣道経験ないでしょう?」
ヒロは、力なくうなずいた。
ハルが、真っ赤な顔でいった。
「ミクさんのお父さんは、こうなることがわかってたんだ。ずるいよ」
「ごめん」
ハルの怒りは、よくわかる。わたしは、みんなに頭をさげた。
(続)