第1章 思い出

 八月三十一日。
 夏休み最後の稽古から帰ってきたわたしは、大きめの茶封筒から一枚の写真をとりだした。
 スポ少大会の翌日の朝に、武道場の前で監督がとってくれた写真だ。
 セルフタイマーでとったので、わたしと男子四人の剣道部員だけでなく、監督もうつっている。
 きょうの稽古の休憩の時に、監督がみんなにくばってくれたのだ。
 剣道部存続を勝ちとった記念に、とった写真だ。
 写真の中では、わたしはもちろん、ケンヤ、ヒロ、ヨウジ、ハル、そして監督の全員が、これ以上ないといった笑顔でうつっている。
 ケンヤたちに出会ってから試合が終わるまで、この夏休みは心がはりつめた毎日だった。
 緊張から解放された今、その日々を思いかえすと、遠い昔の思い出のような気がしてしまう。
 しばらく写真をながめたあと、わたしは自分専用のアルバムをとりだした。
 一年生になった時に母が買ってくれたそのアルバムは、シートをふやしていけるタイプで、厚さは軽く十センチをこえている。
 裏表紙からあければ、すぐに写真をはることができたが、ひさしくアルバムを開いていなかったので、最初のページから開いてみた。
 開いたとたんに、のけぞってしまった。
 目に飛びこんできたのは、入学式の日の校門で、ベロを出しながらVサインをしている写真。
 バカ丸出しを強調しているのは、Vサインをしているわたしのとなりで、しずかにほほえんでいる天使のような女の子がいるからだ。
――ユリン!
 あまずっぱい思いが、胸にひろがった。
 今は、第一小学校にはいない女の子。
――いつ、転校しちゃったんだっけ・・・・・・。
 そのページは、ユリンといっしょにうつっている写真ばかり。
――幼稚園のころから、大のなかよしだったよね・・・・・・。あれ、名字が思い出せない。
 ページをめくると、学校の名札をつけてうつっている写真があった。
『くぜ みく』のとなりでわらうユリンの胸の名札には、『つじ ゆりん』とあった。
(続)