1 レイ

 8月の熱帯夜。Tシャツに短パン姿のレイは、自転車を駅前のパチンコ店でとめた。
 背の高さと整った顔立ちから、中学男子とも見間違うが、小学6年生だ。
 駐輪スペースに自転車をおき、かぎをかける。午後9時をまわっていたが、パチンコ店の前の通りは、よっぱらいや、大学生らしい若者たちであふれていた。
 レイは注意深く左右を見まわし、パチンコ店の入り口から中に入った。
 パチンコ店の中は、温度調節など無視した冷蔵庫なみの冷房がきいていた。店内は、耳が痛くなるほどの大音量でノリのいいBGMが流れていたが、閉店1時間前だけあって、ならんだパチンコ台の前にすわっているお客は、まばらだった。
「お父さん。」
 レイは店内に入ると同時に、よびかけるようにそう言葉を発しながら、どんどん奥に、進んでいく。
「お父さん。」
 子どもがパチンコ店にいることで、視線を投げてくる店員がいると、レイはその言葉を大きく発した。すると店員は、納得したような表情でレイから視線をそらした。

 (続)